第5章

美咲視点

鍵を回す指が震えた。

ドアを引いて開けると、カランとベルが鳴った。蓮司が店の中に入ってきた途端、本屋が息苦しく感じられた。

「中に入れてくれてありがとう」

彼が差し出した花束を、私は受け取らなかった。「ここで何してるの?」

「出張だ。開発プロジェクトで」彼は私たちの間のカウンターに花束を置いた。「君がここに住んでるなんて、全然知らなかったんだ」

「そう。お仕事で」震える手を抑えるように腕を組む。「じゃあ、それが終わったら桜京に帰れるわね」

「しばらくかかりそうだ」彼の視線が私の顔から離れない。その眼差しに今でも心が揺さぶられる自分が嫌だった。「美咲、どうしてた?...

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