第171章 酒一杯飲ませるのも惜しむ

場を取りなす、一見すれば空気を温めるための言葉。

だが、ここに居並ぶのは海千山千の古狸ばかりだ。その言葉が、実は水瀬遥人への当てつけであることに気づかない者はいない。

栢野実は、水瀬敬二と同世代の人物だ。たとえ水瀬敬二であっても、彼には幾分かの顔を立てるのが筋というものだろう。

それなのに水瀬遥人は、たかが一人の女のために、栢野実の面子を潰そうとしているのだ。

水瀬遥人は薄く微笑み、酒の注がれたグラスをすっと中山洋二の前に滑らせた。

「さすがは中山副社長、私のことをよく分かっていらっしゃる。では、この一杯は私の代わりに中山副社長に飲んでいただきましょう」

その場にいた全員が絶句し...

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