第15章 有り得ない

林田景司はハンドルを握りながら、いかにも何でもないふうを装って、江口式を何度も横目で窺った。

浅いグレーのウールコートに身を包み、長い髪をまとめ上げた姿は、見た目だけなら普段と大差ない。だが――どこかが決定的に違う。空気が、硬い。

今日が彼女の出勤初日だと言っていたのを思い出しても、林田景司にはさっぱり想像がつかなかった。結婚前はずっと大学にいたはずだし、名門出身とはいえ、三年も専業主婦をしていた女が、いまさら何をするというのか。

「……YTで、何の仕事してる」

今日の一件で機嫌は最悪だった。声も冷える。江口式の耳には、問い詰められているように聞こえた。

しかも林田景司は、林田秋実...

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