第52章 江口式は本当に手放した

冷たい風の中、江口式は帽子を目深にかぶり、マフラーを巻いて、顔の半分ほどしか見せていなかった。

林田景司はそんな彼女を見やり、その手に提げられた弁当箱に気づくと、深い瞳の奥にかすかな意外の色を走らせた。

だが、それもほんの一瞬。

次の瞬間にはもう何もなかったかのように、その感情はきれいに消えていた。

そして林田景司は、まるで江口式に気づかなかったかのような顔で、そのまま車へ乗り込む。

車内の松本寧音も江口式の姿を目にしていたが、林田景司が乗り込んできた途端、すっと視線を引いた。

何も知らないふりをして、松本寧音は林田景司のほうへ少し身を寄せる。目元にはやわらかな笑みが浮かんでいた...

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