第61章

八神煉の言葉を聞き、香椎早希は一瞬だけ考え込んだ。

確かに今の彼女には、時間をかけて物件を吟味している余裕なんてない。目の前に差し出された選択肢は、たぶん――いちばん合理的だった。

「分かった。住所、送って」

香椎早希は変に意地を張らず、そのまま受け入れた。

「そうこなくちゃ」

八神煉が小さく笑う。声には、わずかな満足が混じっていた。

「USBは持って行け。今夜そのまま入ればいい。鍵はもう、君の会社の受付に預けてある。暗証番号は誕生日だ」

スマホを握る指先に、かすかな熱が走る。

八神煉はいつもこうだ。表向きは淡々としているくせに、必要なことは全部、抜け目なく整えてくる。

通...

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