第65章

八神煉は香椎早希の手首を掴むと、そのまま人波を割って歩き出した。

彼の纏う圧が強すぎて、周囲は無意識に道を空ける。

早希のハイヒールが床を叩き、カツカツと焦った音だけが追いすがってきた。

痛みが走り、早希は堪えきれずに声を荒げる。

「ちょっと……どこに連れて行く気?」

八神は答えない。

無言のまま彼女を引きずるようにして、人気のないラウンジ脇の休憩室へ押し込み、背中で扉を閉めた。

――バタン。

次の瞬間、世界が切り取られたみたいに静かになる。

室内には薄暗い壁灯が一つ。黄味がかった光が、輪郭だけを曖昧に浮かび上がらせていた。

ようやく八神が手を放す。

早希はすぐに一歩退...

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