第70章

電話の向こうが数秒、沈黙した。やがて聞こえてきたのは、雲雀京介が慌てた息を押し殺すような声。

「早希、今すぐ戻る」

それだけ言うと、香椎早希は迷いなく通話を切った。

松井誠美と竹内結菜に視線すらくれない。自分のスーツケースにもたれ、玄関先で締め出されているとは思えないほど悠然と立つ。その所作だけが、やけに優雅だった。

松井誠美の顔色が青くなったり白くなったりする。香椎早希がここまで真っ向から来るとは、想定していなかったのだろう。

竹内結菜は誠美の腕に縋りつき、瞳の奥に一瞬だけ焦りを滲ませた。けれどすぐに取り繕い、柔らかな声で場を戻しにかかる。

「早希、どうしてわざわざ大事にするの...

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