第169章 向こうの策に乗る

北村尚宏は、周りの視線中で頭を下げざるを得なかった。

それ以降、伊原綾音の影響力は一枚上だった。陰で口をきく者など、もう誰もいない。

その一件は当然、澄川琉生の耳にも入った。話を聞き終えた彼は、ふっと薄く笑う。

――たまには、もう少し弱くいてくれたらいいのに。

そうすれば自分の出番がある。助ける隙すら与えてくれないのは、少しだけ癪だった。

このところ琉生は忙しい。久岡家の人間と顔を合わせて以来、上から時折「合図」のようなものが降りてくる。大事ではないが、彼が処理しなければならない案件だ。加えて南島の工事も、いまがいちばん肝心な局面。結果、二人は数日会えていなかった。

昼食はオフィ...

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