第64章 ぶつかる勇気がない、俺がぶつかる

伊原綾音はそのメッセージを見つめ、涙をにじませたまま笑った。まだ自分を利用して案件を引っ張ろうだなんて――ずいぶんと都合のいい夢を見ている。

「さっき聞こえなかった? 株は返さない。今日サインして離婚しないなら、法廷で会いましょう」

伊原綾音はそう返信すると、スマホを収納スペースへ放り込み、無表情のままエンジンをかけた。車が数メートル進んだ、その瞬間。

黒いポルシェがいきなり飛び込んできて、進路を塞いだ。

停車すると同時にドアが開き、降りてきたのは北野隆也だった。

黒いスーツに身を包んだ北野隆也は、怒気をまとってこちらへ迫り、窓をバンバンと叩いて開けろと合図する。

「話そう」

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