第66章 呼び出すつもり

この件は、伊原綾音としては言うつもりがなかった。もう離婚しているのだから、彼女が首を縦に振るはずもない。けれど相手から問われた以上、嘘をつく理由もなく、ありのままを告げた。

「確かに話はされた。でも私は引き受けてない。雲峰を出た以上、あの人のために動くなんてありえないから」

澄川琉生はしばらく黙り、それから言った。

「君に描かせようとしていたデザイン案、あれは美術館の図面だ。北野隆也は久岡明礼と組んでる。久岡家はその美術館案件を取りに来てる」

伊原綾音は、はっとした。――そういうことだったのか。

「安心して。あなたに約束したことは守る。必ず取らせる。北野隆也なんかに渡す気はない」

...

ログインして続きを読む