第1章

私と藤原村矢が付き合い始めた途端、その恋は友人たちの間で賭けの対象になった。

私たちの恋が三ヶ月以上続くか否か、ただそれだけの賭けだ。

藤原財閥が東京の財界で占める地位は侮れず、一般人が容易に足を踏み入れられるような世界ではない。

対して私、神崎淵萌は、明治大学に籍を置くごく普通の大学院生に過ぎない。

村矢は誰にでも親しみやすく、女性に対して無礼を働くことは決してなく、どんな関係も円満に終わらせることができる人だった。

その「優雅な距離感」とも言うべき態度は、東京の若き名媛たちの間で彼に非凡な魅力を与えていた。

私たちの最初の出会いは、偶然と言えば偶然だった。

当時、私は平安時代文学の研究のために希少な漢籍を探しており、明治大学の掲示板で助けを求めていた。

驚いたことに、「藤原」と名乗る人物から返信があった。自宅の書庫にその本があり、参考に貸してくれるという。

感謝の意を伝えるため、私たちは銀座のカフェで会う約束をした。

初めて会った日、彼はシンプルながらも洗練された深い藍色のスーツを纏い、物腰は柔らかいが、どこか御曹司の風格を失っていなかった。

その日の会話はことのほか弾み、私たちは世界各地の文化の違いについて語り合った。彼の見識には驚かされるばかりだった。

二度目に会った時も、私たちは二時間にわたって語り明かした。

そして桜の季節、明治神宮の外で、淡いピンクの花びらが風に舞い落ちる中、彼は不意に私に尋ねたのだ。

「これからも一緒に展覧会を見に行く機会はありますか?」

私は半ば冗談めかして答えた。

「あなたは簡単に口説き落とせるけど、どんな関係にも明確な期限があるって聞きました。本当ですか?」

彼は気分を害した様子もなく、どこか気軽な口調で問い返してきた。

「じゃあ、試してみる気はある?」

試す、か。

相手が彼ならば、それも悪くないかもしれない。

だが、それが私たちの本当の初対面ではなかった。

もっと昔、私が東京に来て大学院生活を始めたばかりの頃、駅でトラブルに見舞われたことがある。

荷物を盗まれ、さらに梅雨の豪雨に見舞われ、私はとあるコンビニの前で途方に暮れていた。

ちょうど通りかかった村矢が、黒い傘を差して私の前に歩み寄ってきた。

「何かお困りですか?」

見知らぬその人を警戒する私に、彼は穏やかで誠実な眼差しを向けた。

「別に怪しい者じゃない。泣かないで。どうしてもダメなら、僕がお金を貸すから、自分で帰る?」

その日、彼は私を大学まで送ってくれたが、私は彼の名前を尋ねる暇さえなかった。

漢籍の一件があって初めて、彼があの雨の中の見知らぬ人だったのだと気づいた。

村矢と付き合い始めた時、ルームメイトが驚愕した様子で私に告げた。

「彼が誰か知ってるの? 藤原財閥の若様よ! 誰と付き合っても二ヶ月以上続いたことがなくて、必ず別れるって噂だよ」

私は「今を大切にしよう」という心持ちで、この関係を受け入れた。

後になって知ったことだが、藤原村矢の友人たちが賭けの期限を三ヶ月に延ばしたのは、私が村矢の初恋の相手に三分似ているからだったらしい。

佐々木萌花に。

しかし、私たちの関係は皆の予想を裏切って進展していった。

村矢は積極的かつ細やかで、明治大学の図書館の外で私の講義が終わるのを待ち、温かいお茶二つと焼きたてのあんまんを手に待っていてくれた。

三ヶ月目になると、彼は私の大学近くのマンションに引っ越してきた。会うのに便利だから、というのが理由だった。

私たちはよく六本木へインディペンデント映画を観に行き、鑑賞後、村矢は美しい和紙に感想を書き留め、それを千羽鶴に折って私にくれた。

時折、彼は先祖伝来の浮世絵の技法で私の絵を描いてくれた。中でも特に忘れられない一枚がある。桜の木の下で本を抱えて微笑む少女の絵で、その筆致はまるで桜が風にそよいでいるのが見えるかのように繊細だった。

初めて肌を重ねたのは、彼が私の平安時代文学研究の難題を解決してくれた夜のことだったと記憶している。

彼のマンションで、月光が窓から畳の上に差し込む中、彼はそっと私の頬に触れた。

「初めて雨の中で会った時から、君の姿を絵筆で描き留めたいと思っていたんだ」

私が恐る恐る、以前の恋人たちにもそうだったのかと尋ねると、彼は真剣な眼差しで私を見つめた。

「君は違う。訊いてみればいい。僕が誰かとここまで進んだことがあるかどうか」

九月、村矢は一族の企業の仕事を片付けると、わざわざ私に付き添って鶴岡八幡宮へ祈願に行った。

彼は私の手を引いて古びた石段を上り、一歩一歩を気遣ってくれた。

絵馬が並ぶ壁の前で、彼は私の願い事を書いた木札を掛けてくれた。木漏れ日が彼の横顔にまだらに降り注いでいた。

あの時、私は本気で彼を愛してしまったのだ。

この恋が、あのような形で終わりを迎えるなど、誰が想像できただろう。

もっとも、最初から私たちは、今この瞬間の幸せを大切にしようと思っていたのではなかったか。

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