第9章

学期末の試験がようやく終わり、明治大学のキャンパスでは学生たちが次々と荷物をまとめ、帰省の準備を始めていた。

私は校門の前で立ち止まり、バックパックの中の資料を整理しながら、冬休み期間中の論文の進捗を計画していた。

「行くぞ。駅まで送ってやる」

あまりにも聞き慣れた声だった。顔を上げると、そこに藤原村矢が立っていた。濃紺のカシミアコートを身にまとい、両手をポケットに突っ込んでいる。

その表情は、静かだった。

私は、呆然と立ち尽くした。

どう返事をすべきか考えていると、一台の黒い高級車がゆっくりと校門の前に停まった。後部座席の窓が下り、若い女の子の顔がのぞく。

「藤原...

ログインして続きを読む