第6章

まだ高橋詩織が去った衝撃から抜け出せず、先ほどの『側室の礼儀』を巡る会話が信じられずにいた。

思考が混乱するさなか、背後から聞き覚えのある声がした。

「梨花、ここにいたのか」

神代時臣の声が清泉のように耳に流れ込んできたが、私の心は逆に引き締まった。

振り返ると、彼は優雅にそこに立ち、高橋詩織が去っていった方向を鋭い眼差しで窺っていた。

「詩織が何か言ったのか」

彼の口調は穏やかだったが、見過ごせない探るような響きがあった。

私が答えようとしたその時、高橋詩織が突然引き返し、優雅な笑みを浮かべていた。

「時臣君、久しぶり。さっき水野さんとお喋りして、私たちの婚約の...

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