紹介
彼、時臣は慈悲の心などない極悪非道の大悪党で、私の運命の相手ではなかったのだ。
「ねえ時臣、もし誰かに騙されたらどうする?」
彼は言った。
「海に投げ込んで、サメの餌にする」
「……」
恐怖に震える私は、彼に嫌われて別れてもらうため、毎日べったりと彼に付きまとうことにした。
ところが、彼は向き直って友人にこう自慢していた。
「俺の彼女、俺のこと死ぬほど愛してるんだぜ!」
えっと……。
誰か助けて。
チャプター 1
懐石料理店の個室で、蝋燭の光が揺らめき、神代時臣の完璧な横顔を照らし出している。
彼は自らの手で精巧なケーキを運んできた。桜の形をしたデコレーションが、燭光の下でひときわ幻想的に見える。
「梨花、誕生日おめでとう」
目の前にいる神代家の長孫を見つめながら、私はこの半年間の出来事が今なお信じられずにいた。
周りの名士たちがグラスを掲げて祝ってくれるが、彼らの背後で交わされる囁き声が聞こえてくる。
「あの平民の娘、運がいいわね。神代の御曹司が発作を起こした時に、ちょうど居合わせて助けたんですって」
「神代家が一人の部外者を一四半期以上も受け入れるなんて信じられないわ」
私は聞こえないふりをして、時臣の端正な東洋風の顔立ちを見つめ、勇気を振り絞って皆の前で自ら彼に口づけをした。
驚きのざわめきがすぐに巻き起こったが、時臣は優しく私に応えてくれた。
半年前、私はまだT大学医学部の平凡な学生、水野梨花に過ぎなかった。あの日、下校途中の電車事故がすべてを変えた。再び目を開けた時、私は銀座の路地裏に立っており、手には桜の形をした和風のお守りを握りしめていた。
『物語の世界へようこそ、梨花様』
お守りが微かに光を発した。
『わたくしはあなたの守護者です。どうか指針に従い運命の任務を完遂し、現実世界にお戻りください』
私が驚きに打ち震えていると、路地の奥から鈍い物音が聞こえた。医学生としての本能で駆け寄ってみると、ハイブランドのスーツを着た男性が地面に倒れ、顔は青白く、呼吸は浅く速かった。
「心臓発作!」
私はすぐに跪いて救急処置を施した。
後になって知ったことだが、彼こそが神代家の長孫、神代時臣で、一族の遺伝病を患っていた。
その救助の後、彼は私に猛烈なアプローチを始め、私たちは交際関係になった。
「蝋燭を吹き消して、願い事をして」
時臣の声が私を現実に引き戻す。
私が願い事をしようとしたその時、ハンドバッグの中のお守りが突然、目を刺すような光を放った。
『大変です! 梨花様、運命の人を間違えました!!!』
私の笑顔が顔に張り付いたまま固まり、全身が氷のように冷たくなる。皆に気づかれないよう、素早くハンドバッグを開くと、お守りが中で激しく点滅していた。
「どういうこと?」
と私は小声で尋ねる。
『神代時臣はあなたが攻略すべき対象ではありません! 彼は原作では悪役で、その心は淵のように深く、手段は冷酷非情、人の命を芥のように扱います! あなたの本当の任務対象は、藤原悠介です!』
私は衝撃に顔を上げ、時臣を見つめた。彼は優しく私を見つめており、お守りの説明とは天と地ほどの差がある。
『一刻も早く彼との関係を解消し、藤原悠介への運命の任務を完遂してください。さもなくば、現実世界へは戻れません!』
時臣が私のそばへ歩み寄り、低声道で囁いた。
「君が望むものなら、何でも叶えてあげるよ」
私は心の中で願い事を唱えた。神代時臣と円満に別れられますように、と。
蝋燭が吹き消された後、しかし、それは神秘的に再び燃え上がった。時臣はわずかに眉を上げ、何かに気づいたようだった。
帰り道、私たちはエレベーターで彼のペントハウスへと向かった。ドアが閉じた瞬間、時臣は私の額に軽くキスをする。私は深呼吸をして、単刀直入に切り出すことに決めた。
「時臣君、私たち、終わりにしましょう」
空気が凍りついたかのようだった。彼の眼差しは瞬時に氷のように冷たくなり、その身から放たれる無形の圧力が、私を思わず一歩後ずさりさせた。
彼がこんな表情を見せるのは、これが初めてだった。
「わ、私の言いたいのは、私たち、家柄が違いすぎるってこと。あなたが私に良くしてくれるのは、私があなたを助けたからかもしれないし……」
時臣は一歩前に出て、私をエレベーターの隅に追い詰めた。
「梨花、君は自分の言ったことを忘れたのか? 『命の恩は、一生をかけて報いるべきだ』と、僕が君を裏切れないように言ったじゃないか」
「本当の愛は相手を尊重すること、潮時を見計らって手放すことよ」
私は必死に弁解する。
「あなたの重荷になりたくないの」
エレベーターのドアが開き、彼は有無を言わさず私を抱き上げ、寝室へと入っていく。
彼は私をそっと畳の上に下ろし、身を屈めて私の耳元で囁いた。
「愛とは独占だ。守護であり、いかなる代償を払っても惜しまないこと。梨花、僕は手放さない。君にも手放させはしない」
二人が親密に過ごした後、彼の指が私の頬を優しく撫でる。しかしその声には警告の色が滲んでいた。
「二度と別れ話はするな」
私は声が嗄れて話すこともできず、ただ頷くしかなかった。
まったく、かつてのあの純真無垢だった神代時臣はどこへ行ってしまったの!
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