第6章
桜浜総合病院の救急処置室。頭上では無機質な蛍光灯が煌々と輝いていた。私は廊下で、指の関節が白くなるほど固く手を握りしめて座っていた。
顔は涙の跡で汚れ、目は胡桃のように赤く腫れ上がっている。一秒が永遠のように感じられた。
「桜井さん?」医者が姿を見せた。
私はすぐさま立ち上がった。「彼は、どうなんですか?」
医者は手袋を外し、重い表情で言った。「怪我はかなり深刻です。命に別状はありませんが、短期的な記憶喪失に陥る可能性があります。彼が目を覚まさない限り、詳しいことはわかりません」
目の前がぐらりと揺れた。「記憶喪失? どういう、ことですか……?」
「ここ数日間の出来事を...
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