第51章

一ノ瀬紗月は心の奥で冷たく笑った。けれど表情は崩さず、理解ある妻を演じるように小さくうなずくだけで、それ以上は踏み込まない。

彼女がそうであればあるほど、九条湊の胸は落ち着かなくなる。

「ねえ、数日後にチャリティーの晩餐会があるの。一緒に行きましょ」

紗月は唐突に話題を切り替え、声色まで軽くした。まるで、さっきの引っかかりなど最初から存在しなかったみたいに。

「私たち、最近ふたりで公の場に出てないでしょう? 外じゃ勝手な憶測が飛んでるみたいだし……ちょうどいい機会よ。どれだけ仲睦まじいか、見せてあげましょ」

その提案は、湊の思惑にぴたりとはまった。

一ノ瀬蘭の件で揺らいだ夫婦関係を...

ログインして続きを読む