第53章

一ノ瀬紗月の胸の奥に、言いようのないあたたかなものが複雑に流れ込んだ。彼女はジュリアに申し訳なさそうに小さく頷くと、スカートの裾をつまみ、人波をすり抜けて神谷蓮の前へ進み出る。

「……どうして、ここに?」

自分でも気づかない驚きと、どこか甘い親しみが声に滲む。

神谷蓮は紗月をまっすぐ見つめ、口元にごく淡い弧を描いた。

「一人にしておけなかった」

たったそれだけ。なのに、どんな飾った言葉よりも胸が落ち着いた。

そこへ、グラスを手にしたジュリアが興味津々と歩み寄ってくる。二人を見比べながら、噂話を楽しむような目で口角を上げた。

「沈、紹介してくれない? この綺麗な女性が、あなたの言う...

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