第54章

一ノ瀬紗月が返事をするより早く、彼は何かを証明したいみたいに踵を返し、足早にキッチンへ向かった。

少し乱れた背中を見送った瞬間、紗月の瞳から温度がすっと消える。氷点下――そんな冷え方だった。

彼女は立ち上がり、そのまま寝室へ入った。

ベッドサイドのチェストに、しまい損ねた書類が広げられている。

九条ホールディングスが入札に参加する予定の『南地区開発区』プロジェクト計画書。そこには、鮮やかな赤で「機密」の印が押されていた。

紗月はざっと目を走らせ、いくつかの重要な協力会社の名前で視線を止める。

キッチンでは九条湊が忙しなく手を動かしていた。包丁がまな板を打つ音が、カン、カン、と乾いて...

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