第58章

「分かった。神谷グループの人間に、気づかれないよう水面下で買わせる。あいつの警戒も招かないはずだ」

神谷蓮が一拍置き、声を落として言う。

「紗月、これはリスクがでかい。バレたら、お前……」

「大丈夫」一ノ瀬紗月は言葉を切り、硬い意思を滲ませる。「やると決めた以上、退くつもりはない。神谷蓮、ありがとう」

「俺たちの間に、その言葉はいらない」

通話が切れた。

紗月はスマホを置き、キッチンへ向かってぬるい水を一杯注ぐ。日が傾き、部屋の静けさに冷蔵庫の低い唸りだけが混じった。

簡単に夕食でも作ろうかと思った、そのとき。

カチャ、と玄関の鍵が回る音。

九条湊が帰ってきた。

一ノ瀬美琴...

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