第100章

翌朝、豪邸のインターホンが鳴らされた。

だが、応対に出る使用人はいない。大志が紗奈の「静養」と出入りの便宜を図るため、腹心以外の使用人を粗方解雇してしまっていたからだ。

朱月がドアを開けた。

立っていたのは大志ではなく、彼の筆頭秘書、大西だった。

黒のスーツに身を包み、顔には職業的だが一片の温度もない笑みを張り付かせている。

「緑川奥様、おはようございます」

朱月は彼を招き入れる気などなく、ただ冷ややかに彼を見下ろした。

「離婚届を持ってきたのなら受け取るわ。それ以外なら、さっさと消えて」

大西は鼻梁の眼鏡を押し上げただけで、朱月の罵倒にも動じない。それどころかポケットから車...

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