第117章

「朱月、席を空けてくれ」

大志は腰を下ろすと、当然のように朱月へ顔を向けた。

「紗奈がさっき手洗いで、たちの悪い人間に絡まれたらしいんだ。酷く怯えている。また何かあったら大変だから、俺の側に座らせてやりたい」

周囲の視線が一斉に突き刺さる。

本来なら緑川夫婦が並んでショーを観覧するという構図のはずが、そこへ無理やり「被害者」である紗奈が割り込む形となった。あまりに奇妙で、皮肉な光景だ。

朱月は、紗奈が羽織っているジャケットに目をやった。それは元々大志のもので、まだ彼の体温が残っているはずだ。

ぶかぶかの襟元から顔を覗かせ、紗奈はウサギのように赤くなった目を朱月に向けた。

だが、...

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