第121章

真波町の高級ホテルのペントハウスは、温かく賑やかな空気に包まれていた。

林田朝実教授は感慨深げに朱月を見つめていた。いつもの厳格な口調だが、その奥には隠しきれない優しさが滲んでいる。

「朱月、あなたが絵筆を握った瞬間、あの才能溢れる学生が帰ってきたと確信したわ。よくやったわね」

「教授……」

朱月の目元が熱くなる。その時、温かい手が彼女の手を包み込んだ。

車椅子に座る江藤院長だ。足の怪我は完治していないものの、その表情は晴れやかだった。

彼女は朱月の手を何度もさすりながら言った。

「いい子だ。勝ち負けなんてどうでもいい。自分自身を取り戻せたなら、お婆ちゃんはそれだけで嬉しいよ。...

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