第50章

朱月はコートを引っ掴むと、紗世の手を引いて足早に外へ出た。

その古風な生地屋は、目立たない路地裏にひっそりと佇んでいた。間口は狭いが、一歩足を踏み入れれば、そこは別世界だった。

薄暗い店内には、樟脳の懐かしい匂いが漂っている。

色とりどりの反物が所狭しと積み上げられ、その山は床から天井にまで届きそうだ。

朱月は指先で布地を滑らせ、独特な織りの感触と、長い歳月が刻んだ風合いを確かめていく。

紗世は不安げに彼女の後ろをついて回っていた。

ここに並ぶ布地はどれも個性的で魅力的だが、デザイン画のイメージに合う色や質感を備えたものは見当たらない。

「朱月、これじゃ……」

紗世が言いかけ...

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