第52章

大志は彼女を一瞥もしなかった。冷徹な声で看護師に命じる。

「さっさと江藤院長を運び出せ。紗奈の安静を妨げるな」

看護師たちは顔を見合わせたが、結局は大志の放つ威圧感に屈し、慌てふためいて江藤院長の簡易ベッドを動かす準備を始めた。

朱月は足元を釘付けにされたように動けず、全身の血液が凍りついたような感覚に陥った。

彼女はただ、呆然と大志を見つめることしかできなかった。

かつて一生守ると誓ったはずの男が、今はその広い背中で、別の女とその家族のために堅牢な城壁を築いている。

そして、自分と自分にとって大切な人々は、無情にも壁の外へと突き放され、敵意に満ちた極寒の荒野に晒されているのだ。...

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