第63章

朱月がペンを置いた瞬間、凄まじい脱力感が全身を襲った。彼女は背もたれに体を預け、指先から力という力がすべて抜け落ちていくのを感じていた。

「いい取引だったよ、朱月」

圭介は契約書を丁寧に手元のファイルに収めた。

そして席を立つと、再び彼女の前に歩み寄り、冷ややかな視線で見下ろした。

「さて、と」

先ほどまでの事務的な響きは消え失せ、彼の声には気怠げで、どこか不安を煽るような色が混じり始めていた。

「もう一つの取引について話そうか」

朱月の心臓が嫌な音を立てた。彼女は警戒心を露わにして顔を上げる。

「もう一つ?」

「ああ」

圭介の唇が弧を描く。だが、その瞳の奥は氷のように冷...

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