第76章

言い終わると、彼はきびすを返してソファに戻り、再び書類を手に取った。先ほどの出来事など、退屈な余興に過ぎなかったというかのように。

書斎は再び、死のような静寂に包まれた。

朱月はその場に立ち尽くし、身動きひとつできなかった。

ソファに深く座る男を見つめる。かつては、彼こそが自分の世界のすべてだと思っていた男を。

ランプの光に照らされた彼の横顔は相変わらず端正で、輪郭は際立っていたが、そこには徹頭徹尾、冷酷な他人の気配しか漂っていなかった。

八年という歳月は、まるで質の悪い冗談だった。

彼のために夢を捨て、翼を折った。

自ら進んでこの牢獄で飼い殺しにされてきたのだ。

そして伊織...

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