第81章

「緑川奥様、気がつかれましたか?」

若い看護師がトレイを持って入ってくると、彼女が目を覚ましたのに気づき、点滴の速度を緩めた。

朱月は無意識に周囲を見渡した。

病室はガランとしており、医療機器の電子音だけが規則正しく響いている。

あの見慣れた人影は、どこにもなかった。

「主人は?」

彼女の声は枯れ、喉には焼けるような痛みがあった。

看護師の表情が一瞬強張り、視線をわずかに逸らした。

「緑川様は先ほど、会社で緊急の用件が入ったとのことで……お電話を受けて急いで戻られました。ですが、最善の治療を行うようにと仰って、費用もすべて済ませていかれましたよ」

会社で急用?

今は深夜の...

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