第87章

翌日の午前九時。ロングアイランドの富裕層エリアにある私有荘園にて。

黒塗りのセダンが植え込みを抜け、重厚な建物の前で静かに停車した。

朱月はドアを開け、画筒を大切そうに抱えて降り立った。中には、彼女の運命を左右する絵画が収められている。

周到に準備を重ねてきたはずだが、相沢江良という人物と対面するとなると、やはり胸の内で不安が渦巻く。

「緊張しないで」

紗世が車のロックをかけ、歩み寄って朱月の襟元を甲斐甲斐しく整えた。

「江良が見るのは才能だけよ」

朱月は深く息を吸い込み、決意を込めて頷いた。

屋敷の執事が玄関で待機しており、二人を二階のアトリエへと案内した。

アトリエは広...

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