第91章

遠くにいた大志の耳に、悲鳴が届いた。

彼は振り返り、雨のカーテン越しに、地面に跪く朱月と――その周囲に広がる鮮烈な赤を目にした。

彼の瞳孔が収縮する。無意識に立ち上がり、歩み寄ろうとしたその時。

「大志……目が回るの……」

腕の中の紗奈が突然彼の服を強く掴み、苦しげな呻き声を漏らした。

「私、死んじゃうのかな……」

彼女は激しく泣きじゃくり、その体から力が抜けていく。

傍らにいた杏沙が、蹴飛ばされた犬を抱き上げ、甲高い悲鳴を上げた。

「なんてこと! 珍珠が怪我してる! 緑川さん、珍珠が血を流してるわ! お姉ちゃんの宝物なのに!」

片や、腕を噛み千切られた妻。

片や、気絶し...

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