第95章

「朱月さん」

健吾の声は、あくまで冷静で理知的だった。

「膿は出し切らなければ、決して治りません。今日の証拠で追い込めるのはここまでですが、これで終わりではありませんよ」

朱月は固く握りしめていた拳を解いた。掌には、爪が食い込んでできた四つの深い血の跡が残っていた。

彼女は健吾を見上げた。瞳の底にあった絶望がゆっくりと引き、死のような静寂の後、ある種の決意が宿る。

「わかっています」

彼女は言った。

「ありがとう、健吾。それから、榊原さんにもよろしく伝えて」

彼女は車椅子を回し、大志が去っていった方向とは逆に背を向けた。

「紗世、行きましょう」

朱月はもう一秒たりともここ...

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