第26章

長い間「白川家の奥様」を演じてきた。事あるごとに、彼女は分別があり、礼儀正しい「白川家の奥様」であり続けた。

だが、それは周防緋音という一人の女ではない。

誰もいない家に帰ると、リビングは漆黒の闇に包まれていた。靴を脱ごうと玄関を探ったその時、強烈な力で手首を掴まれた。

白川和夜の体から漂う女の香水の匂いは、彼女自身が纏う冷ややかな松の香りよりも遥かに主張が激しい。彼女は伏し目がちに、反射的に白川和夜の胸板を両手で押し返した。

「白川和夜……どいて」

白川和夜の幽暗な瞳には、軽蔑の色が浮かんでいる。

「あの男は誰だ?」

彼女は答える必要などないと思った。

彼は手首を万力のよう...

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