第57章

あの時のヒマラヤ、あの雪山での記憶が蘇る。意識が朦朧とする中で感じた、あの温かい体温。

白川和夜は、脳裏をよぎった一瞬の思考を乱暴に振り払った。

ありえない……俺が、周防緋音を好きになるなど。

俺が守らなければならないのは、周防侑子だ。

雪山から俺を背負って降りてくれたのは、あの女なのだから。

「白川社長……」

秘書がおずおずと声をかける。

白川和夜は椅子に腰を下ろし、少しの沈黙の後、低い声で告げた。

「あの女には、もう少し待ってもらえ」

秘書は深く溜息をつき、足早にオフィスを後にした。

いくつもの銀行を駆け回り、周防緋音はなんとか融資を取り付けた。それに安瀬杏那の...

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