第44章 私が好きなのは月下香

 その言い方は、曖昧なくせに妙に生々しかった。莉緒は握られた手が火傷したみたいに熱くなって、ぶわっと鳥肌が立つ。

 身体が勝手にこわばる。けれど吉野母の前で手を振りほどくわけにも、言い返すわけにもいかない。吐き気のする「仲良し夫婦」を、ただ演じるしかなかった。

 その様子に吉野母はますます上機嫌になり、にこにこと手を振って追い払う。

「はいはい、私は大丈夫よ。付き添いなんていらないわ。あなたたち、外で好きにしてきなさい。美味しいもの食べて、映画でも観て、二人の時間をちゃんと過ごして。ほら、早く行った行った!」

 莉緒は救われた気持ちで、すぐにでも立ち上がって失礼しようとした。だがその...

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