第88章 来るのが遅すぎた

 小林莉那みたいに口が達者なわけじゃない。ただ不器用にノートを押しつけて、勉強しろと追い立て、ぷくっと頬を膨らませたまま真面目な顔でこう言った。

「今がんばらなかったら、あの人たちに勝てるわけないでしょ」

 そして、吉野結人が父親に屈辱を浴びせられたときも――怖くて全身ががたがた震えているのに、意地みたいに顎を上げて言い切った。

「私が養う」

 さらに、結人がどん底まで落ちて、もう何もかも捨てたくなった夜には。あの、頑固で、どこか幼いほどまっすぐな目で見上げて、何度も何度も繰り返した。

「結人兄さん、がんばって」

 浅野莉緒だ。

 後に妻として迎え入れたのに、五年も放っておき、...

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