第29章

葵は怒りを通り越して、思わず冷笑を漏らした。

雪菜の治療を断ったというだけで、権力に物を言わせて一人の医師を業界から追放しようというのか。

ブブッ――

突然、スマートフォンが震えた。

画面に院長の名前を見て、葵は庭から離れて通話ボタンを押した。

電話が繋がるなり、院長の焦燥しきった声が飛び込んできた。

「葵くん、藤原社長がどうしても君に雪菜さんの治療を担当しろと……さもなければ君を解雇しろと仰っているんだ。うちの病院の最大のスポンサーが和也氏であることは君も知っているだろう? 彼を怒らせるわけにはいかないんだ、君も……」

院長は言葉を濁した。

葵の胸の奥がすっと冷え切っていく...

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