第55章

和也は小さくため息をつき、雪菜の背中を優しくポンポンと叩いた。

だが、雪菜は腕を緩めようとしない。

和也の膝に顔を埋めたまま、何をされても頑として顔を上げようとしなかった。

「いい加減にしろ、雪菜。誰か見てくる。もし急用だったらどうするんだ」

実のところ、先ほど雪菜の口から葵の名前が出た瞬間、和也の心は密かに揺れ動いていた。

ドアの向こうにいるのが葵かもしれない――そう考えるだけで、胸の奥に微かな高揚感が湧き上がる。

なんだ、あいつも口で言うほど、俺と本気で離婚したいわけじゃないんだな……。

和也は自分の脚に巻きついている雪菜の手を軽く叩いた。

「ちょっと見てくる」

再びド...

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