第175章

鳴瀬颯真がスイートの前に立ち、ドアを押し開ける。暖房の熱が、ふわりと顔を撫でた。

彼は疲れた体をリビングのソファへ沈める。ぬくもりに包まれているはずなのに、胸の奥だけが冷えたままだ。

自分でも、なぜここへ来たのかうまく説明できない。たぶん――ここにいれば、星川千奈にほんの少しでも近づける気がしたから。

千奈が家族を連れて帰国してからというもの、周りは口をそろえて同じことを言った。今の彼女は穏やかで幸せに暮らしている。本当に愛しているなら、もう関わるべきじゃない、と。

颯真だって痛いほど分かっている。千奈には愛する相手がいて、可愛い子どももいる。望んでいた暮らしを手に入れている。ここで...

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