第193章

深夜のJ市は、すでに静寂に沈み、夜風さえもどこか柔らかい。

初秋とはいえ、空気にはまだ熱の名残がある。寝室から続く眺望の開けたバルコニーで、鳴瀬颯真はバスローブを羽織り、手すりに身を預けていた。

指先に挟んだ煙草を静かにくゆらせながら、視線だけはずっと、キングサイズのベッドで眠る星川千奈に落ちている。

今夜の出来事は、手を伸ばしても届かない夢みたいに現実味がなかった。

颯真だって分かっている。これは一時の感情の発露か、あるいは白鳥雪奈に向けた彼女なりの報復――その程度のものだ。

それでも、彼は自分から沈んでいった。喜んで、深みに。

煙草を揉み消し、鳴瀬颯真はふっと笑う。自嘲が混じ...

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