第53章

ホテルを出たころには、すでに陽は傾き、街の輪郭が茜に溶けはじめていた。

鳴瀬颯真は車に乗り込んでからずっと顔を曇らせたまま、ひと言も発しない。

英子は彼の身にまとわりつくような冷気をはっきり感じ取り、慎重に問いかけた。

「鳴瀬社長、このあと……会社に戻られますか。それとも、ご自宅へ?」

返事はない。英子はそれ以上踏み込めず、前方に意識を戻してハンドルを握った。

そのとき、鳴瀬颯真のスマホが鳴った。表示は小林琴音。だが彼は取らない。

続けて村上からの着信が入ると、ようやく通話を繋いだ。

「奥様は、あの日……家を出られてから、ずっとご友人のところにお泊まりです」

「千鳥結亜か」

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