第268章

「落ち着けよ。俺は誠心誠意言ってるんだぜ」

 相手が怒りのあまり地団駄を踏もうとも、彼はどこ吹く風といった様子だ。

「よくもまあ!」

 上原桃華は奥歯を噛み砕かんばかりに強く食いしばり、星谷邦男を睨みつける視線には陰険な色が滲んでいた。

「星谷邦男。私を本気で追い詰めるつもりなら、なりふり構っていられなくなるわよ」

 上原桃華は一刻も早くこの場を離れたかったのだろう。捨て台詞を残すと、踵を返して立ち去った。

 焦眉の急は、あの人物を見つけ出すことだ。

 星谷由弥子が上原家を去ってからというもの、家中の空気が一変した。

 上原翁は表立って何も言わないが、その専属弁護士が頻繁に出...

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