第282章

「師匠、芫花というのは漢方を習い始めた頃に名前を聞いたきりですよ。実際に使われているところを見るのは初めてで、ちょっと興味が湧いて……」

 天宮和人と星谷由弥子が車を降りて庭に入ると、遠くからそんな澄んだ声が聞こえてきた。

 その声を聞いた瞬間、星谷由弥子は立ちすくんだ。

 天宮和人もそれに合わせて足を止める。

「どうした?」

 星谷由弥子は呆然としたまま顔を上げた。

「天宮和人、私を叩いて」

「正気か?」

 天宮和人は眉をひそめたが、星谷由弥子の要求に応じ、手を上げて彼女の肩をポンと叩いた。

「もっと強く!」

 これでは痛みなど感じないと言わんばかりだ。

「……」

...

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