第10章

だが、それもほんの一瞬だった。

日向雫は身体の脇で指をきゅっと丸め、すぐにほどく。瞳の奥に浮かびかけた微かな波は、瞬く間に凍りつき、氷のように固くなった。

鷹司蓮矢が呼んだのが、彼女であるはずがない。

雫は自嘲するように小さく首を振る。声は氷片みたいに淡く、感情の起伏が一欠片もない。

「聞き間違いよ」

指先で軽く押す。通話は容赦なく切れ、受話口には冷え切ったツーツー音だけが残った。

バーの個室。濃い酒の匂いが空気にまとわりつく。

渡辺夏央はスマホを握ったまま、顔色が一気に爆ぜた。刺々しい怒気が頭まで駆け上がる。

「……あいつ、俺の電話を切りやがった!?」

いつから自分が、こ...

ログインして続きを読む