第25章

坂本時佐の喉仏が、ごくりとひとつ上下する。言いかけた言葉が、喉の奥で引っかかった。

日向雫は足を止め、振り返って彼を見上げる。瞳には、縋るような懇願が滲んでいた。

「先輩……私、妊娠してること。どうか、内緒にしてください。あの人には……知られたくないんです」

坂本時佐は数秒黙り、また喉仏を動かして、低く答えた。

「……分かった」

視線が、あらためて日向雫に落ちる。坂本時佐は堪えきれず、彼女を細部まで見てしまった。

痩せすぎている。シャツは身体に合わず、どこかぶかぶかで、肩の線が頼りない。ひと吹きの風で折れてしまいそうだった。

五年前の雫は、眉と目に光が満ちていた。イーゼルの前に...

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