第70章

レストラン。

坂本時佐は日向雫を連れて、窓際のボックス席へ向かった。

雫が椅子を引こうとした、その一瞬――先に誰かが椅子を引いた。

坂本時佐だった。彼はごく自然に、雫の手からバッグを受け取り、脇の荷物棚へそっと置くと、小声で注意する。

「傷、当てないように」

彼の手の誘導に従って、雫は静かに腰を下ろした。

時佐はテーブルのカトラリーを取り上げ、ナイフとフォークを雫の左手側へ寄せて整える。さらに白湯の入ったグラスを彼女の前へすっと滑らせ、持ちやすい向きに取っ手を回しておいた。

胸の奥がふっと温かくなる。雫は視線を落としたまま、小さく言う。

「……ありがとう」

「俺に遠慮するな...

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