第8章

「いい歳して、映画みたいな真似まだ好きなのか。雨が降ったら、わざわざ雨ん中に飛び込むなんて」

坂本時佐の声はひどく静かで、ほんのりとしたからかいが混じっていた。暗い夜にぽつりと灯った、たった一つの光みたいに温かい。

日向雫は顔じゅうが冷たく濡れていて、これが雨なのか涙なのか、自分でももう分からなかった。

いちばん見られたくない姿を、二度も彼に見られてしまった。

坂本時佐は傘を彼女のほうへ傾けた。傘の大半は日向雫の頭上を覆い、代わりに彼の肩の半分が雨にさらされる。

「傘、持ってて。俺、乾いたタオル取ってくる」

日向雫は声も出せずにうなずいた。指先で柄を握りしめる。冷たい金属が掌に食...

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