第88章

日向雫は、自分がぼんやりしているのかと思った。

鷹司蓮矢の顔に、はっきりとした落胆が浮かんでいたからだ。

半分だけ落ちた灯りが彼の輪郭を縁取り、いつもの冷たく硬い線が、不思議と刺々しさを失っている。

彼は黙って二秒だけ彼女を見つめ、ふいに背を向けた。広い背中が光を受けて長い影を落とし、続いて低い声が響く。

「牛乳、温めてくる」

日向雫は、どこか夢見心地だった。

それは――昔、彼女がいつもやっていたことだ。

鷹司蓮矢は以前、深夜まで残業するのが当たり前だった。

彼の扱う複雑な事業案件など雫には分からず、手伝えることはほとんどない。だから帰宅の時間を見計らって、口当たりのいい温度...

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