第206章 薔薇

翌朝、夏目グループ。

夏目千尋がガラス扉を押し開け、自分のオフィスへ入った。

バッグを置く間もない。廊下の向こうから、どたどたと騒がしい足音が押し寄せてくる。

作業着姿の男が二人、前後に並んで巨大な荷物を担ぎ、入口をぎゅうぎゅうにすり抜けてきた。

真っ赤な塊が、通路をきっちり塞ぐ。

――薔薇だ。

花弁の雫はまだ乾ききっていない。濃厚な香りが一気にオフィス中へ広がった。

受付の丸伊は手にしていたコーヒーを落としかけ、ひゅっと息を呑む。

作業の手が止まり、皆が首を伸ばしてこちらを見た。

「夏目千尋さん、いらっしゃいますか!」

先頭の配達員が額の汗をぬぐい、腹の底から声を張り上...

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