第42章 彼女の犬を蹴った

夏目千尋は、それ以上返事をしなかった。

スマホを置き、目を閉じる。

脳裏に、また神崎雅臣の顔が浮かんだ。

車の中で、横顔のままこちらを見ていた――あの目つき。

夏目千尋は寝返りを打ち、枕に顔を埋めて、音も立てずに息を吐いた。

……最悪。恥ずかしすぎる。

一方、神崎雅臣が会社に戻った途端、スマホが鳴った。

神崎のおじい様からだ。

「もしもし、じいさん」

『雅臣か。航路はもう手配しておいた。来週にはプライベートジェットで戻れる』祖父の声は相変わらず張りがある。『そのときはお前も千尋も、家で俺と飯を食うんだ。いいな』

神崎雅臣は椅子の背に凭れたまま、「……うん」と短く返した。

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