第56章 顔に泥がはねた

「私、上に行って見てくる」

夏目千尋は考えれば考えるほど胸騒ぎが強くなり、袖をまくって東屋を出た。

中島玲子は柱にもたれて爪をいじっていたが、その言葉を聞くなり鼻で笑った。

「大げさじゃない? あの老いぼれ、この山で何十年もやってきたんでしょ。いまさら何が起きるっての」

夏目千尋は足を止め、振り返って玲子を睨みつけた。

冷たく、重い視線。

中島玲子は思わず首をすくめて口をつぐんだが、顔にはまだ「くだらない」とでも言いたげな色が残っている。

伯母さんが地面から立ち上がる。唇が小刻みに震えていた。

「千尋、私も一緒に――」

「伯母さんはここにいて」夏目千尋は遮るように言った。「...

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