第38章

夜――天城澪はようやく、きっちり定時で退社できた。

玄関を開けた瞬間、ふわりと漂ってくる料理の匂いが、空腹の胃を容赦なく刺激する。

「奥様、お帰りなさいませ」

出迎えた執事が、にこにこと頭を下げた。

澪はその背後に並ぶ豪勢な夕食に目を丸くする。

「吉川、今日はお客さまでも来るの?」

「いいえ。旦那様が『奥様にしっかり栄養をつけさせろ』と」

吉川は内心で思う。

――坊ちゃん、ようやく分かってきたな。奥様を大事にするってことが。

澪は一瞬きょとんとして、昨夜、腰を掴まれながら「痩せたな」と言われたのを思い出した。耳の先が勝手に熱くなる。

「……そ、そう」

照れ隠しみたいに笑...

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